時代遅れの優位支配性神話が犬も飼い主も不幸にしてしまうかも…
2011/12/05 Mon. 18:00 - category:しつけ教室・訓練・トレーニング

先日、とある相談があって深く考えさせられましたので改めて記事にしてみます。
リーダー説や、ボス説や、優位支配性なんて言葉、皆さんも聞いたことがありますよね?そう、確かに昔は日本のトレーニングもそれ一色でした。
正直、私も犬の世界に入り立ての頃は、それを神話のように信じていた一人。

でも、ハッキリ言って、それは時代遅れです。
先日私のところに来た相談は、以下のようなものでした。
とある一人暮らしの飼い主さんが犬を飼っていました。日中は仕事のため、毎日12時間以上の留守番で独りぼっち。日頃他人に会ったり、他の犬に会うこともなく飼い主さん以外に懐く機会もなく社会性が明らかに欠如している環境下で飼育されて5歳になりました。
そんなある日、飼い主さんが亡くなりました。
犬を可哀そうに思った里親さんが引き取りました。
しかし・・・
5歳まで社会と接する機会をほとんど奪われた環境で育った犬です。里親さんに懐くはずもなく、他人を信頼するはずもなく、一晩中吠える・触ろうとすると唸る・それでも触ろうとすると噛むという問題が出て来たそうです。
確認したところ、里親さんは優位支配性神話が強く頭にあったので、「自分は馬鹿にされている!犬より上に立たなくちゃ!犬のボスになりきれていないんだわ!」と思ってしまい、唸ったり噛んだりしたその犬を叱りつけてしまったそうです。
結果・・・その犬の攻撃行動はさらに悪化してしまい、恐ろしくなり、もうその犬を可愛く思えなくなってきたと、私に相談されてきたわけです。

皆さんは、この攻撃性の原因をどう感じたでしょうか?
犬が人より上に立ちたいから?いいえ、おそらく違うでしょう。私の考えは、この犬にとって、亡くなった元の飼い主さん以外の全ての他人が怖くて怖くて仕方なかったんだと思います。
私は、この攻撃性は恐怖による攻撃行動だと感じました。
だって、今まで飼い主さん以外と接触なく育ってきたんだもの。日中はずっと家の中で一人ぼっちで刺激のほとんどない世界でずっと育ってきたんだもの。
だから、他人から手を出されるのが怖くって、自己防衛のために唸り、「来ないで!やめて!」と相手に合図を送っていたはずなんです。だけど、その合図は見逃され、余計に手を出されて唸ったコトに対してさらに強く叱られた。
その結果、自分を守るために先手を打って攻撃を仕掛けるようになったのでしょう。

この犬のバックグラウンドを考えると、通常のしつけの範疇では対応しきれないと考え、投薬治療も含め、行動治療科がある専門の獣医さんへの相談をオススメしました。
だって、5年間一緒に暮らしてきた、この犬の全てだった飼い主さんが急に亡くなって突然会えなくなって、それだけでもこの犬は大変なストレスを抱えているはずなんです。そこへ、さらなる環境の変化と、唸ったことへの罰。この犬は精神的に限界なのだろうなと感じました。
心優しい里親さんで、犬のことを思ってくれたからこそ、私に相談してくれたんだと思います。そして、行動治療家に相談に行ってみるとおっっしゃってくださいました。犬のことをちゃんと考えてくれる素晴らしい里親さんに出会えて、良かったね。これから、行動治療を根気よく続けて、お互いのストレスが緩和され、仲良く一緒に暮らしていけることを祈ってます。
もし、リーダー説をモットーにしているような場所へただ預けられたら、今後この犬に触ることはおろか、近づくことすら出来なくなる可能性だってあると思います。(あくまでも可能性・信頼が結ばれれば劇的に良いコになる可能性もあるでしょう)
医学が日々進歩するように、トレーニングの世界も犬の行動心理学の世界も日々変化しています。私自身、何年も前には、こんな行動心理の記事内容を自分が書くなんて、想像だにしていませんでした。恐らく昔の私なら、「犬の祖先の狼は~・・・。リーダーになる必要か~・・・」なんて言っていたのかもしれません。お恥ずかしい話です




少しでも犬の気持ちに寄り添えるように、今後も自分自身変化していこうと思います。

テーマ: ***行動学による犬のしつけ・トレーニング・訓練*** - ジャンル: ペット
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